Why is the Night fabulous.
「ギル様よし、ソルカールよし、お掃除もよし……
あ、おしぼり足りないかも……? この前ギル様がお冠だったしね」
10センチを優に超えるハイヒールが星をまき散らすように床を蹴る。
フロアをくまなく見渡し、ひとつひとつ指差しながら呟く美女……のような「男(ホスト)」。
アルジャーノンは営業開始前の最終確認を行っていた。
クロノスタシスが常に変わらぬ支持を得ているのは、こうして彼が日々の細やかな気遣いを欠かさないからに他ならない。
それを全てのホスト──ギルガメッシュも含めて──が痛感しているからこそ、アルジャーノンは幹部として認められ、全幅の信頼を置かれているのだ。
「アル君。時間なので、号令をお願いします」
「オッケー。すぐ行くね」
頭角を現し始めたNo.3・カールに呼ばれ、振り返る。彼もまた、アルジャーノンを認めるうちのひとりであり、
アルジャーノンもまた、彼とその弟に期待し、また気に掛けていた。
「はい。……いつも助かってます。アル君がいる限り、クロノは安泰ですね」
「ふふっ、ありがとう。でもね、この世界は弱肉強食だから……」
それがカールのお世辞なのか、心からの賛辞なのか、別の思惑を込めたのか。
カールの横を通り過ぎながら、アルジャーノンはそっと囁いた。
「僕的には、カールがいてくれるともっと安泰なんだけどな☆」
そうしてウインクを飛ばすと、ヒールの音を変わらずに響かせ、プリンセス・クロノは待機するスタッフの元へ軽やかに歩いていく。
面食らった一匹狼は、慌てたようにその後を追った。
「それじゃ、みんな。いつものやるよ!」
──そして輝くシャンデリアの下、アルジャーノンによる開店前の号令がかかる。
今日という夜を、変わらずにファビュラスなものにするために。