Appearances are deceptive.
出勤前、ソルは更衣室で下ろしたてのスーツに身を包み、コートを手に取る。
袖を通そうとしたが思い留まり、肩に掛けて腕を組むポーズを取った。
「……誰かさんみてぇだな」
色こそ違ったが、艶々と光る布地と靡く裾から漂う高級感のようなものが
クロノスタシスのNo.1ホストを想起させた。
「やっぱ似合わねぇか」
「服に着られてるようでは、その100万のスーツと1000万の時計が泣くぞ」
鏡の前でポーズを変えながら唸っていると、「誰かさん」が部屋に入ってきた。
誰もが認め、崇めるこの店のトップホスト・ギルガメッシュその人だった。
「よお。怒鳴って後輩泣かせてたヤツの言葉とは思えねえな。カールが嘆いてたぜ」
「すまない、先日の件は失態だった」
この男はいつだってそうだ、精一杯の嫌味も涼しい顔で流してしまう。
だがソルは、それが神故のものではない、と気づき始めていた。
「澄ました顔してられんのも今のうちだぜ。すぐに追い抜いてやるよ、カミサマ」
「ああ、楽しみにしている。まずは今日の売上で俺を抜いてみるといい」
あっという間に身支度を整えたギルガメッシュの去り際に投げかけた言葉も、
こうしてあっさり躱される。
それでも、靡いたジャケットの裾に続く背中は以前よりもずっと、近く見えていた。