Under the Moon


「……ええ、期日までに必ず。はい、ではまた」

人気のないビルの奥。クラブ・トワイライトNo.2ホストの白洲は、携帯電話で誰かとの通話を切るとコンクリートの壁にもたれながら夜空を見上げる。フーっ、と短く息を吐きながら遠い月を見上げるその顔は、どこか疲れているように見えた。
「ソル君にカール君はあれから連絡なし……まだまだ掴めないなあ」

ちょっと危ない資金調達から、情報収集を始めとした諜報活動。
白洲が兆司と一緒にこのミセランド……もとい美勢で後ろ盾なしに成り上がっていくには手段を選んではいられなかった。携帯のメッセージ画面には、姫からのメッセージがひっきりなしに届くばかりで、有力な情報はすぐに舞い込んでくるはずもない。こんな催促の電話ひとつでため息をつくような弱者に、ミセランドの頂点に立つ資格はない。

「白洲、こんなところにいたのか。始めるぞ」

そこに、兆司が現れた。電話を聞かれたかとドキリとしたがそんな様子もない兆司に安堵し、白洲はもたれ掛った背中を起こし兆司に向き直った。

「ごめん、外の空気吸ってたんだ。今行くよ。今日も頑張ろうか……ふたりで」

「そうだな」

白洲が笑うと、兆司はそう笑い返す。そして静かに裏口から自分たちで築き上げた城にふたり並んで入っていく。
その笑みの裏に秘めたものを、今宵の月が照らすことはなかった。